2022年、林康夫 94歳。自らが語った林康夫という生き方を 288ページで回顧する。
私家版(定価2,000円+200円(消費税)+送料)
15歳で予科練に入隊し、16歳で飛行術練習生となり、17歳で特攻に志願し、終戦の日をむかえた林康夫。
その日から77年。
戦後の混乱期の京都で、新しい陶芸のかたちを追い求め、
激動の時代をくぐりぬけてきた芸術家の人生を回顧する。
1970年代初頭、林康夫は海外の桧舞台で立て続けにグランプリを獲得し、世界の陶芸界に衝撃的なデビューを果たした。彼が出品した作品はいずれも知的な考察を経て形づくられた造形作品である。
古来、陶磁器、やきものといった陶芸は壺や食器など生活用具としてのみつくられ供されるのが通常であった。林はその常識を超え、造形すること自体を目的とし、芸術のひとつのジャンルとして成立させた。
彼は満州事変から数えて15年間に及んだ日中戦争の最中に幼少年期を送り、すべての少年がそうであったように軍国少年として育ち、15歳で海軍航空隊(予科練)に入り、もしも終戦が数日遅れていたなら 17歳で、殺到するアメリカ艦隊に向かって爆弾を抱えた飛行機もろとも体当たりするはずであった。
廃墟と化した国土の中を故郷京都にたどり着いた林康夫が何に出会い、何を考え、何に挑み、何を成し得たのか。林の驚くべき貴重で綿密な口述を柱に、時々の時代背景や世の雰囲気をあぶり出し、当時の様々な記録資料や評論等を駆使しながら希有な芸術家が生きた希有な道のりを辿る。
林 康夫
- 1928年
- 京都市東山区に生まれる。
- 1940年
- 京都市美術工芸学校(現:京都市立銅駝美術工芸高校)絵画科に入学
- 1943年
- 第二次大戦により海軍航空隊に入隊
- 1945年
- 敗戦。京都市立美術専門学校(現:京都芸大)に編入学し、日本画を学ぶが中退
- 1946年
- 父の陶業再開とともに家業を手伝う
- 1947年
- 四耕会結成に参加
- 1950年
- 現代日本陶芸展パリ、チェルヌスキー美術館(フランス)
- 1972年
- 第30回フアエンツア国際陶芸展グランプリ受賞(イタリア)
- 1973年
- カルガリー国際陶芸展グランプリ受賞(カナダ)
- 1974年
- 第4回バロリス国際陶芸展グランプリ、ド・ヌール受賞(フランス)
- 1987年
- 第1回オビドス・ビエンナーレグランプリ受賞(ポルトガル)
- 以降現在に至り第一線で活躍
目次
第一章 戦争前
- 1明治、大正、昭和
- 2誕生とあいつぐ引っ越し
- 3藤森の少年時代
- 4美工に入学して
- 5近づく戦争の影
- 6美保海軍航空隊に入隊
- 7厳しい予科練の日々
- 8飛行術練習生として
- 9特別攻撃隊の一員になる
- 10最後の飛行
- 11終戦
第二章 戦後
- 12藤森に帰還
- 13東山松原への引っ越し
- 14美専から日国工業へ
- 15製陶業への復帰
- 16五条坂のくらし
- 17若者たちの決起
- 18四耕会結成
- 19新時代にふさわしい会へ
- 20ヨーロッパの美術に触れて
- 21五条坂をゆるがす大事件
- 22四耕会に期待す
- 23オブジェ陶の誕生
- 24ユニークな研究会
- 25前衛挿花と前衛花器
- 26広がる発表 アンデパンダン、芦屋市展
- 27直弧文との出会い
- 28カンディンスキーと力士
- 29ハイヒールの制作
- 30フランス チェルヌスキー美術館「現代日本陶芸展」
- 31九州での二人展
- 32朝鮮戦争と四耕会の停滞
- 33大阪の前衛運動へ ゲンビ、モダンアート……
- 34あたらしい仕事場
- 35四耕会の終わり
- 36四耕会とはなんだったのか、そして以降
- 37走泥社へ
- 38登り窯から電気窯へ
- 39大阪芸大へ
- 40ファエンツァ国際陶芸展のグランプリ
- 41四耕会が消される−錯誤の歴史記述
- 42五十代からの挑戦 夜間飛行のさらなる飛躍へ
- 43前衛陶芸発生のころ
- 44父の死
- 45寓舎
坂上 しのぶ
Shinobu Sakagami
美術史家
1971年東京都に生まれる。1997年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。第二次大戦前後の京都における前衛美術運動の歴史調査を専門とする。「彦坂尚嘉 1972年 京都における3つのイベント」「四耕会 1947年-1956年頃前衛陶芸発生のころ」「80年代考」等,京都の前衛事情に関する論文や書籍を発表。
2014年には京都の前衛美術画廊ギャラリー16の50年間の展覧会記録と戦後美術の流れをまとめた「50years of galerie16」編集。2017年、アメリカ人アーティストJames Lee Byars の日本での日々をまとめた「James Lee Byars: Days in Japan」(英文 Floating World Editions)、2020年「刹那の美James Lee Byars」(青幻舎)刊行。
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